美濃禅定道は、平安の昔から修験者が白山を目指して歩いた道である。
872年、僧・惟高によって白山が美濃側から開かれたと伝わる。そこから数えて1153年後、僕は仕事の先輩と共にその道を歩いた。
今回の目標は二つ。ひとつは、修験者や信仰登山者に思いを馳せながら三ノ峰に向かうこと。もうひとつは、福井県最高地点である越前三ノ峰に立つことである。
登山口の石段を登ってしばらくで、いとしろ大杉が現れる。

樹齢は約一八〇〇年。白山開山の前からここにあった木だ。
修験者もその前に立ち、祈りを捧げたのだろう。僕も同じように手を合わせる。巨木はただそこにあり、時代だけが流れていったのだと思う。
朝の山間部は冷えた。けれど空は晴れ渡り、一日を通してガスは出なかった。
銚子ヶ峰では、北アルプスや御嶽山、荒島岳、能郷白山までがくっきり見えた。三ノ峰、そして別山が真正面に並ぶ。千年近く前の行者も、この線上に山々を重ねて見ていたのだろうと思う。



やがて三ノ峰(2128m)に着く。



事前に、三ノ峰から白山や別山を拝んで戻った人もいたとネットで知っていた。だからこそ、ここに立つこと自体に意味があると感じた。
経塚に祈りを捧げたかったが、それらしき跡は見当たらなかった。
けれど、当時の修験者がそうであったように、三ノ峰から白山へ向かって手を合わせる。時代は違っても、祈るという行為は変わらない。
ここでいったん三ノ峰避難小屋に戻る。
小屋の近くからヤブを分けて越前三ノ峰を探した。標高2095m、福井県の最高地点である。
場所が分かりにくいと聞いていたので不安もあったが、途中ですれ違った登山者に場所を詳しく教えてもらい、看板を探し当てることができた。
仕事の先輩と「福井県民の誇りを拾いに行くんだ」と笑いながらヤブに入った。看板の前に立ったとき、県民として誇らしい気持ちが確かにあった。


そのまま越前三ノ峰避難小屋へ回り、食事を取るために中に入る。
サーモスに入れて持参したお湯でカップラーメンをつくり、インスタントコーヒーを飲む。歩いてきた時間が、湯気の向こうでゆっくり落ち着いていく。パンは二つのうち一つを食べ、ポカリはほぼ飲み切った。水は半分ほど残った。ナッツは行動中の小さな燃料になった。
修験者の時代を正確に知ることはできない。
けれど、彼らもまたこの道を歩き、この山に祈りを捧げ、どこかで引き返したのだろう。三ノ峰で拝み、戻った人もいたという記録を、僕は事前にネットで読んでいた。
当時の信仰そのものを受け取れるわけではない。けれど、経塚や遥拝という形で未来に残そうとした祈りに、少しは応えることになったのではないか――そう思う。
下山に移る。空は最後まで澄み、山は静かだった。
祈りは目に見えない。けれど、歩いた足跡の奥に、確かな手触りとして残る。
そう感じながら、美濃禅定道を後にした。
美濃禅定道を歩き三ノ峰・越前三ノ峰へ / ふみさんの越前三ノ峰・銚子ヶ峰の活動データ | YAMAP / ヤマップ

コメント